「八千両異変」付記

今日、国会図書館に行って、八千両異変が掲載された文藝讀物の最終号のマイクロフィルムを見た。国会図書館ではオール読物は戦前戦後のほとんどの号がマイクロフィルムで閲覧できる。

「今般の出版企業整備に際して、『文藝讀物』は残存娯楽雑誌六誌の中の一つとして存続することに決定を見たのでありますが、日毎に苛烈深刻を加えつつある戦局に鑑み、より以上積極的に整備に協力すべく、四月号を最後として自発的に『文藝春秋』に統合することとなりました」という「社告」が掲載されている。
突然出版社が倒産してしまったときのように、4月号が発行された後になって停刊が決まり5月号が発行されなかったのではなくて、4月号の発行時点で後が無いことがわかっていたわけである。

ところで「八千両異変」は、河出書房版では
「この話はまだまだ長いのですが、残念ながら筆を止めて、ざっと荒筋だけを辿り、思いも寄らぬ下手人を登場させます。」という文章でいきなり種明かしに移るのだが、文藝讀物に掲載された原文では、この部分がより生々しいものであることがわかった。
「此話はまだまだ長いのですが、残念乍ら筆者に許された行数が尽きました。ざっと荒筋だけを辿って、思いも寄らぬ下手人を登場させます。」という文章なのである。
全体の8割以上も淡々と書いてきた文章が、いきなり「筆者に許された行数が尽きた」という文で尻切れトンボで終わるのは異常である。職業作家としては無計画もはなはだし過ぎる。まして、解決編になっていきなり「思いも寄らぬ下手人が登場」するのは、どう考えても推理小説としてはいただけない。ルール違反に近い。
なので、この話は本来次号に続く筈のものが、停刊によって無理矢理に話の落ちをつけなければならない羽目になったのではないかと考えるのである。
ただ、「オール読物」は「全部読切」、つまり連載が無いことが売りの小説誌でもあった。これから考えると元々八千両異変も読みきりの作品で、作者が話の筋の進め方の配分を誤っただけという可能性もある。


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